繊維と酵素の利用 [03 製造・加工]
繊維と酵素の利用に関して、素材ごとにまとめてみました。
1)綿
①風合い加工【素材:綿、成分:セルロース、酵素:セルラーゼ】
綿(セルロース)への酵素処理(例:セルラーゼ)は、不均一な減量、フィブリル繊維の切断、強伸度の低下、水分率の低下を及ぼす。
機械的な作用とともに行うと毛羽除去、適度な減量が生じ、揉み・たたき効果によって構造組織の変化がおこり、糸や生地表面のなめらかさや光沢性の向上、ピリング性の向上、柔軟性の付与、吸水性の改善がされる。これを「バイオポリッシング加工」と呼ぶ。欠点は、強伸度の低下。
*素材としては、水分率が低下するが、生地としては、吸水性が向上する。
②綿の精練【素材:綿、成分:不純物としての①ペクチン質、②綿ろう、酵素:①ペクチナーゼ、②リパーゼ】
綿の精練では、ペクチン質や綿ロウ(天然の油分)の除去を行う。そのために強アルカリ(水酸化ナトリウムなど)でペクチン質を可溶化、綿ロウはケン化することで可溶化する。一般に、浸透力を強化するため界面活性剤を併用して高温で行う。
酵素精練(バイオ精練)は、ペクチナーゼを用いペクチン質を除去、リパーゼを用い綿ロウを除去する。廃アルカリの処理が不要なため、環境負荷が少なくなる。
2)麻
①綿と同様に精練及び風合い加工のために各物質に対して酵素を用いる。
セルロース:セルラーゼ
ヘミセルロー:ヘミセルラーゼ
リグニン:リグニン分解酵素
ヘミセルロース【hemicellulose】:植物細胞壁に含まれる、セルロースを除く水に対して不溶性の多糖類の総称。(Wikiより)
リグニン【lignin】:木質素とも呼ばれる高分子物質。高等植物中でセルロースなどとともに植物の木化に関与する。木材中の20~30%を占め,セルロースと結合した状態で存在する。(世界大百科事典 第2版より)
3)絹
①絹の精練【素材:絹、成分:セリシン、酵素:プロテアーゼ】
絹の精練は、石鹸を主体に珪酸ソーダ、炭酸ソーダ、重曹等のアルカリが使われる。
酵素精練では、プロテアーゼを用い、セリシンのみを分解する。
この性質を利用して、「セリシンオパール」という加工がある。未精練の絹に対し、オパールと同じ手段を用い、部分的にセリシンだけを分解させ、光沢が異なる部分を作る。
4)ポリエステル(吸水改善)
ポリエステルの酵素加工が研究されている。強度劣化を抑え、表面に小さな凸凹を作り、吸水性が向上させる。
5)その他(サイジング除去)
サイジングされた経糸が澱粉の場合は、アミラーゼを用いて分解する。
6)その他(漂白の中和)
染色前工程の漂白では、繊維の脆化が少ない過酸化水素を用いる。しかし、わずかでも残存していると染色工程へ悪影響をおよぼす。そのため、中和として亜硫酸ソーダ、チオ硫酸ソーダなどの還元剤を使用する。
酵素処理としては、還元剤を用いず、カタラーゼを用い、過酸化水素を水と酸素に分解する。この方法では、還元剤自身の残留の心配がない。
言ってはならない単語 [06 技術論]
補足:堀晃著 「マッドサイエンス入門」新潮文庫 より